〔19〕





 けじめをつけなければいけないと、夕映は思ったのだ。


 だから、暁と心を通わせられた────正確にはそれだけではないけれど、そっちは割愛するとして────翌々日、昼休みに屋上に市原をさりげなく呼び出した。あの翌日は夕映が非番だったので、時間が許す限り暁のいる病院に訪れていたためだ。

「あ、の…実は、話したいことが……」

 非常に言いづらかったけれど、ここで逃げてはダメだと思い、懸命に勇気を振り絞って切り出した彼女の前で、市原はけろっとした笑顔を見せたので夕映は驚いてしまった。

「ああ、暁さんとマジで付き合うことになったんだろ?」

 と、こともなげに爆弾発言まで投げかけてきたので、夕映の驚きはもう最高潮だ。

「あの一連の流れを見せられちまったら、バカでも気付くって。有川の心の中には、俺の入る余地なんかないってことにさ。気にすんなよ」

「ご…ごめ……」

「だから、謝るなって。誰が悪いってことでもないんだしさ。勝負は時の運。運も実力のうち。暁さんのほうが、女神を引き寄せるのにより強い運を持ってたってことだよ」

 と、市原は夕映にはよくわからないことを言った。

「俺の敗因は、自覚してすぐに動かなかったってことだな。ほんとうに欲しいものができた時は、ごちゃごちゃ考えてないですぐ動かなきゃ……自分の体裁なんて取り繕ってちゃ駄目だってことを、暁さんが教えてくれたよ」

 それでもやっぱり悔しいから、面白いこと教えてやる。

 そう言って、市原が夕映に語ったことは、やはり夕映には意味のわからない言葉で……。

「今日の帰りも病院に行くんだろ? その時に言ってやれ。で、それはともかく早くメシ食っちまわなきゃ、時間なくなっちまうぜ」

「あ、うん…」

 そして、市原のあまりのあっさり具合に夕映は拍子抜けしてしまった訳だが、それが見せかけのものであることを夕映が知ることはなく。その後別に被害を受ける人物が存在するのだが、それはまた別の話なので、別の機会に記すこととして。

 夕刻、仕事を終えた夕映は、既に行き慣れ始めた病院への道を、愛車で走り始めた。

 そうして。ほとんど合図と化した、ノックを三回。これで、暁には夕映とわかるはずだった。

「どーぞー」

 入院前と変わらない普段通りの元気な声に、ホッとしながらドアを開ける。実際は元気なのは声だけだとわかっているけれど、それでも悪化はしていないようだということがわかるからだ。

「どう…ですか? 調子のほうは」

 ドアから顔をのぞかせながら、念のため問いかけると、やはりいつもと変わらない笑顔。

「だいじょぶだいじょぶ、変わりなし。まあ、やっぱメシとかトイレとか一人でできないのは不便だけどな」

 ちょうど食事を終えたばかりらしく、介助をしていたのだろう看護師が後片付けをしているところだった。夕映の姿を認めると、実に微笑ましそうに笑みを見せる。

「あら、もしかして彼女さん? だったら、お食事は彼女さんにおまかせしたほうがよかったかしら」

 くすくすくす。次の瞬間、部屋に入ったばかりの夕映の顔が一気に真っ赤に染まり、それなりに経験があるはずの暁まで何故か頬を赤らめた。

「なっ 何で暁さんまで赤くなるんですかっ 過去に別のひとと付き合ったことあるんでしょうっ!?

「いくら経験あったって、付き合い始めでそんなに余裕なんかあっかよっ」

「あらあら、初々しいこと」

 ふたりのあまりのテンパりように、ネタを振った看護師が一番楽しそうだ。ふたりよりは年長に見えるので、ふたりよりよほど経験を積んでいるのかも知れない。

「それでは、私はこれで。何かありましたら、コールしてくださいね。どうぞ、ごゆっくり♪」

 意味深な笑みを浮かべ、看護師は実に手際よく病室を出ていった。あの食えなさは、貴絵をも上回るかも知れないと、夕映は思った。そんなある意味不毛な思考を打ち切ったのは、暁の照れ隠しのような声。

「と、とにかく座ったらどうだ? 仕事で疲れたろ」

「あ、はい…それじゃ……」

 何となく、気恥ずかしい沈黙がふたりを包む。

「あ、あの…」

「あ、あのさ…」

 ふたり同時に切り出していたので、驚いてしまう。

「あ、そちらからどうぞっ」

「あ、いや、俺はどうせ一日ここに居ただけだし、そっちのほうが重要な話なんだろうから、そっちからで構わないぜっ」

「そ、そう、ですか…? なら……」

 そして、夕映は話し始める。昼休みの、市原とのやりとりのことを。とにかく、それを先に話しておかないとと思ったのだ。どことなく神妙な、けれど余裕を持った表情でそれを聞いていた暁だったが、夕映が疑問に思って問いかけた、市原が語った最後の言葉で先ほどの比ではないほどに挙動不審な様子を見せ始めた。その様子があまりにも信じられなくて────普段そんな様子を見せてしまうのは、主に夕映のほうだったので────夕映は目を丸くしてしまった。

 え。なに? 何なの? 私はただ、市原くんに言われた通りに「『レースクイーンじゃなくて残念でした』と言ってましたけど、どういう意味ですか?」って訊いただけなのにっ 何で暁さんが、こんなにテンパっちゃうの?

 それは、暁に対する市原の半ば憂さ晴らしのようなものだったが、夕映がそれを知るはずもなく、突然様子の変わった暁に対して不思議に思うことしかできない。当の暁からしてみれば、かつての自分の言葉が最大の原因であり、そして市原がそれをあえて夕映に伝えさせることによって自分への意趣返しを果たしたことがよくわかっているからこそ、あまりに唐突な、予想もつかない方向からの攻撃に為すすべもなかったのだと、夕映が暁当人から聞いたのは、それからたっぷり10分ほど経った頃のこと。

「な…何なんですか、それぇっ!! ひとにあれだけ心配させて、そんなこと考えていたんですかっ!?

 怒りもあらわに、バッグを頭上に抱えていまにも殴りかかってこんばかりの夕映の前で、暁は包帯やギプスで固定された両腕を掲げて防御する。怒りに我を忘れかけても、さすがに怪我人に対してそれ以上することができなかったため、そこで動きを止めたまま夕映は困り果ててしまった。

「…い、いや、それは、希くんとの勝負を開始した時に言った言葉であって……別に、あの事故以降に考えてた訳では…っ」

「……もう、いいです。暁さんがどういう人かわかってて、……になったのは私の責任なんですから」

 もう、ため息しか出てこない。

「責任って……」

 苦笑いを浮かべながら、バッグを下ろして再び椅子に座った夕映を見つめていた暁は、ふと何かに気付いたように、いたずらっぽい笑顔に表情を切り替えた。

「俺がどういう人間かわかってて、どうしたってー?」

 問われてから、自分が何を言ったのか思い出した夕映は、かあっと顔を赤らめて。膝の上で、きゅ…っと両手を握り締めた。が、顔のすぐ脇にこれ以上ないというほどににやついた暁の顔が近付いてきたことに気付いて、反対側に顔をそむけた。

「んー? で、どうしたってー?」

 わかっているだろうに、わざわざ反対側に回ってまで追及の手をゆるめない暁に、夕映はもうパニック寸前だ。

「し、知りませんっ それより、ちゃんと寝てないといつまで経っても治りませんよっっ」

「えー、だってずっとここで一日寝てんのも結構ヒマなんだぜー? それよか、夕映ちゃんに逢えるほうがよっぽど元気もわいてくるってもんだよ」

 そう言われると、嬉しさと恥ずかしさが入り混じった奇妙な感情が心を支配してしまって、もうどんな顔をしていいかわからない。夕映の人生において、こういう経験はほとんどなかったに等しいから。

「は…恥ずかしいから、あんまりそういうこと言わないでくださいっ」

 もう、限界だった。話しているだけでこれだったら、実際に身体と身体が触れ合ったりしたら────これは夕映が自発的に気付いた訳ではなく、暁との正式交際を報告した際に、貴絵に冗談交じりに言われたことだ────自分はどうなってしまうのだろう? それが夕映の、現在一番の心配ごとだった。そんな夕映の内心など知らぬかのように、暁は夕映が恥ずかしくて仕方がない言葉ばかり投げかけてくるから、もう、どうしてよいかわからない。

 そして。

「あ。もうそろそろ、面会時間も終わりますね。もう、私も出ないと…」

 名残惜しいけれどそう言うと、暁が目に見えて落胆した顔をしたので、夕映も何だかせつなくなって、ほとんど無意識に暁の頭部を抱き締めてしまった。よく聞く、母性本能をくすぐられるというのは、こういう感情のことをいうのだろうか? そんなことを考えていた夕映の左頬に、そっと触れるやわらかな温もり。見下ろすと、またしても楽しそうな暁の笑顔。

「今日のノルマ。まだだよな?」

 その言葉を聞いた瞬間、またしても紅潮する頬。ノルマ、とは、暁が入院してから初めて逢った日に初めての口づけを交わして以来、「せっかく想いが通じ合ったのに、独りで置いていかれるのは淋しい」と暁が訴えた末に約束させられたといっていい、ふたりだけの約束事だった。

「…………」

 真っ赤な顔をしたまま、夕映はベッドの端に腰を下ろして、恥ずかしさのあまり俯いてしまう。とてもではないけれど、いまだ平静のままでは受け入れられなかったのだ。そっと顎にかけられる指に顔を上げさせられて、まっすぐに覗き込まれる瞳。嬉しそうな笑顔が近付いてくるのを、見ていられなくて目を閉じて間もなく、唇に感じる温もり。まだ数えるほどしかしていないから、慣れるのには時間がかかりそうで、夕映の胸の鼓動はいまでも爆発せんばかりだ。まさか、ファーストキスからこんなに毎日連続でするものだなんて思っていなかったから─────まあ普通は、こんなに性急に進んでいくものでもないのだが。

「へへ。これで、今晩も淋しいの我慢できそう。ホントは夕映ちゃんが隣で寝てくれたら一番いいんだけど」

「なっ 何を言ってるんですかっ」

「骨折れてんの忘れて襲っちまいそうだから、ダメだよなー」

「そういう問題じゃありませんっっ じゃあ私帰りますからっ おとなしく寝ててくださいね!」

 そう言い残して、夕映は病室を出ていってしまったから。残された暁が呟いた言葉を、まるで知らない。

「マジ…ずっとそばにいられたら、堪えきれねーよ、俺……」




        *            *    *




 そうして。家族や夕映、達や貴絵の気遣いや協力に助けられ、暁は順調に回復を続け、事故から四ヶ月を過ぎた頃には退院の話も出るほどになっていた。

「よかったですねー、暁さん。あの時は、ホントどうなることかと思っちゃいましたもん」

「俺は貴絵から状況を聞いただけですけど、本気でもしものことを考えちゃいましたよ」

 貴絵は明るく、達は対照的に心底ホッとしたように言葉を紡ぐ。

「いやあ、心配かけてホントごめんなー。俺もあん時ゃ、マジで死ぬかと思ったもんよ。けど怪我の功名っつーの? おかげで夕映ちゃんもゲットできたから、超ラッキーかも、俺」

 次の瞬間、暁の後頭部に軽く入る夕映の平手。

「命と、秤にかけられるほどのものじゃないでしょうっ」

 さすがに夕映が本気で怒っているのに気付いた暁は、小さな声で「サーセン…」と呟いた。この四ヶ月の間に、いろんな話をして、すっかり普通の恋人同士のように振舞えるようになってきたからできる会話だ。

「夕映と暁さんが付き合い始めて、もう四ヶ月かあ……あの頃はまだまだ暑い時期だったのにね。いまはすっかり寒くなって、年まで明けちゃったもんね」

 そう言って窓の外を見た貴絵の視線の先で吹きすさぶのは、木枯らし。世間では、もうじきバレンタインで賑わう頃だ。

「でもまあ、経過が順調だってんで、正月は実家で過ごせたし。そんなに悪い入院生活でもなかったかな」

 その時のことを思い出すと、夕映はいまでも顔から火が出る思いだ。何故なら、その頃非番をとって暁の実家を訪れた時に、暁の両親と初めて会う妹の前で、暁に堂々と交際宣言を果たされ、もちろん祝福はされたものの怒涛の質問攻撃に遭い────ちなみに中学生だという妹も暁を兄として普通に慕っている子で、いままでと違って堂々と紹介された『彼女』の夕映に興味津々の様子で、実に好意的に接してくれたのはよかったが────羞恥と緊張で半ば何を答えたのか自分でも覚えていないほどだったのだ。暁に言わせれば、「大丈夫、とくに変なことは言ってなかった」そうだが…………。

「で、もう軽めの怪我だったところはほとんど治ったんでしょう? それだけでもずいぶん楽になったでしょう」

 達が訊くと、暁はすっかり包帯もとれた右腕と左脚を掲げてみせた。

「ああ、何とかなー。ただ、手脚のほとんどがやられちってたから、リハビリが面倒だけど」

「でも、それも夕映を抱き締めるためと思えば、頑張れるんじゃないですか?」

「いや、それは治りきってなくてもバンバン…」

「貴絵っ 暁さんっ!」

 さすがに限界を迎えた夕映が声を上げる。入院してしばしの間ならともかく、いまでは個室ではなく六人分のベッドを収容できる大部屋に移されているのだ、老若入り混じった他の患者のみならず、見舞いの客も数人いる中でそんな話をされたらたまらない。それでなくても若い恋人同士、しかも毎日彼女がお見舞いに来ているとあっては、周囲の皆が興味津々で聞き耳を立てていることは想像に難くない。

「じゃあ、貴絵、俺たちはそろそろ…」

 気を利かせてくれたらしい達がそう切り出してくれたので、夕映はホッとする。やはり達は、細かいところまで気配りのできる相手だなと認識を新たにして。

「あ、そうだね。じゃあ暁さん、退院祝いは何がいいか、考えといてくださいねー」

 達の言葉に素直に従って、貴絵も病室を出ていこうとするのを暁と共に笑顔で見送って、夕映はようやく安堵の息をもらす。暁と貴絵は、単体の時でも困ることがあるのに、二人揃うと無敵状態なので夕映一人では手に余ることも多いのだ。達がいて、ようやく御することができる状態かも知れない。

「いやあ、やっぱり貴絵ちゃんはノリがいいなあ」

「なら、二人で漫才コンビでも組んだらいいんじゃないですか?」

「え、何、夕映ちゃん、ヤキモチ?」

「そんなんじゃありませんっ」

 ほんとうに、ポジティブな人だと夕映は思う。自分とは、ある意味正反対だ。

「それよかさあ、貴絵ちゃんも言った通りもう四ヶ月も経つんだから、敬語はやめてくれって言ったじゃん」

「そ、そうでしたね…って、気をつける、わ」

 やはり、まだ慣れない。

「ところで、ベッドの周りのカーテン引いてくんない? さすがにちょっと疲れちまった」

 そういえば、今日は午前中はリハビリをしていたと言っていた。その上で夕映たち三人の相手をしたのでは、確かに疲れるだろうと何の疑問もなく夕映は思った。周りのベッドの患者や見舞客も帰ったり別のどこかへ行っているのか、だいぶ人数が減っていたが、人目があると何かと疲れることもあるから、と思って素直にカーテンを引いて、その中でふたりきりになる。

 そのとたん、急に手首を引かれ、危うく悲鳴を上げるところだった。こんな時にそんなことをしたら、どんな誤解を受けるかわからないため懸命に堪えたが。気が付いた時には、暁の右腕の中で抱きすくめられていた。右腕はもうすっかりいいようで、普通にしている分には問題はないらしい。

「もうっ びっくりさせないでくださいっ」

 小声でたしなめると、やはり楽しそうな声。

「へへ。だってこうでもしないと、遠慮なくいちゃいちゃできないじゃん」

「い、いちゃいちゃって…!」

 少ないとはいえ、カーテンのすぐ外には他に人もいるのに。暁の大胆さに、夕映は時々驚かされる。男性とは皆こんなものなのかと思うが、達のようなタイプもいるから、一概にそうとも言えないなとすぐに思い直す。

「…何考えてんの?」

 急に無言になった夕映に気付いたらしい暁が、問いかけてくる。

「あ、いえ…男の人ってみんなこんな風に強引なのかなと思ったんで…思ったんだけど、トオルくんみたいな人もいるからそうでもないのかなって」

 すると、暁はすぐに眉根を寄せて少々不機嫌そうな顔を見せた。

「せっかくふたりきりになれたのに、他の男の名を出すのは禁止っ」

 付き合いだしてから気付いたこと。意外に暁はヤキモチ焼きらしい。仕事の話で流れで市原の名前を出した時も不機嫌になるので、てっきり恋敵となり得る相手限定かと思いきやそうでもないらしく、夕映の身近にいる男性全員に嫉妬の対象となる可能性があるらしい。そこまで想われるのは、嬉しいような重いような……複雑な心境である。

「暁さんて…子どもみたい」

 くすくすと笑いながら言ってやると、暁の表情が拗ねたようなそれに変わる。

「…いいよ、子どもだって。それで、一番欲しいものが手に入るんなら」

 とは言うものの、小さくくすくす笑い続ける夕映に、さすがに照れくさくなってきたらしい。夕映を抱き締めていた体勢を少しずらして、その耳元にそっと唇を寄せてきた。

「あんまり笑ってると……この場で色々イタズラしちまうぞ?」

 その言葉に、職業柄思わず反応してしまう。それを見計らっていたかのように、続けて告げられる…ささやき。

「もうずっと、忍耐生活強いられてるんだからな。夕映──────」

 名をそのまま呼ばれるのは初めてではなかったけれど、平常の状態で、しかも耳元で呼ばれることにこれだけ破壊力があるとは、夕映は思ってもみなかった。それまでとは立場が逆転して、夕映の顔がかあっと赤くなり、暁の表情が再び楽しそうなそれに変わる。

「この間……『退院祝いは何がいいか考えといて』って言ってくれたろ。あれ、俺の望みは初めっから決まってるよ」

「え……」

 確かに先日、「考えておいてくれ」と告げてはいたが……。

「俺が欲しいのは、ただひとつだけだよ。夕映の、すべてが欲しい──────」

 意味を正確に理解したとたん、言葉が、耳元から一気に全身を駆け巡った気がした。まるで全身が心臓そのものになってしまったかのように、みずからの動悸ばかりが大きく聞こえて、それまで聞こえていた周囲の音も何も聞こえなくなって……聞こえるのは、暁の声だけ──────。

 急速に力が抜けてしまった夕映の首筋に、小さな音を立てて当てられる唇。生まれて初めて味わう感覚────けれど、不快には感じない────が、神経がむき出しになっているかのような夕映の全身を襲う。ぞくぞくするような感覚に、思わず身体が震えて……。

「あ……」

 小さな声が、思わず洩れる。

「…嫌なら、もちろん無理強いはしない。だけど、俺ももう限界。だから、俺がこう思ってることだけは、覚えておいて」

 それだけささやくと、暁はいつもと変わらぬ優しい笑顔になって、夕映の両頬にそっと手を添えて、半ば反射的に目を瞑ったその唇に優しいキスを捧げた………………。


    





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2013.1.19up

暁の回復も順調なようですが、夕映に大きな壁が立ちふさがってきて…
夕映は覚悟を決められるのか? そして暁は本懐を遂げられるのか?(笑)

背景素材「空に咲く花」さま