〔2〕





「………………」

 ほとんど無意識に後ろ手で鍵を閉めて、靴を脱ぎながら中へと入る。もっともっと、間近でその姿を目に焼きつけたくて。

 コンタクトにしているのか、普段かけている眼鏡を外して、髪を上げているだけでもずいぶん印象が変わるというのに、驚いたのはその服装だった。淡い紫色の────後で凛子に聞いたところ、竜胆
(りんどう)色というのだそうだ────大きな百合の柄が染め抜かれた艶やかなものに和辛子色の帯を締めた、浴衣姿で。自信がないのか普段とはまるで違う戸惑いがちな瞳で、うつむき加減で上目遣いで明人の様子をうかがっている。その風情と儚さに、思わず息をのむ。他人に言ったら笑われそうだが、この時の明人の内心には、目前の凛子に触れたら消えてしまうのではないだろうかという危惧さえあったのだ。

「りん…こ……?」

「あ、あの…実家の母の若い頃のものなんだけど……どう、かな。変じゃない…?」

 その声は、やはり聞き慣れた凛子のもので。とりあえず、消えていなくなってしまうことはなさそうだと安堵しながら、言葉を紡ぐ。

「─────い」

「え?」

 よく聞こえなかったのか、まだ不安の色を瞳に浮かべたまま、凛子が聞き返す。

「すっげ…いい。ごめ、何か、言葉にできない……」

 自分の顔が、真っ赤に紅潮していくのがわかるが、明人自身にもどうしようもない。片手で口元をおさえ、正視できなくて一度視線をそらしてから、それでもやっぱり見たくてちらちらと横目でうかがう。中高生男子かと自分でも思うが、恋人の初めて見る姿に平静を保てなくて、気のきく言葉すら出てこない。こんなこと、初めての体験だった。

「気に入ってくれたのなら、よかった……」

 やっと安心できたのか、凛子の瞳から不安の色が消えたのを確認してから、明人はその場でへたり込んでしまう。

「明人さんっ!? どうしたのっ!?

 凛子があわてて駆け寄ってくるのをもう片手で制止して、明人はまだ頭の中でまとまりきらない言葉をそのまま唇に乗せる。

「ごめん…あんまりにもびっくりして……すごく、綺麗だ─────ごめん、月並みなことしか言えなくて」

 おいおい、どうしちゃったんだよ、俺。いつもの俺だったら、もっと歯の浮きそうなセリフをバンバン言えるだろうに。何で全然言葉が出てこないんだよ。

 そんなことを思いながら自分自身を叱咤激励するが、言葉は頭の中にまるで浮かんでこない。人はほんとうに感動した時には言葉すら出てこないと聞いたことがあるけれど、現在の状態がまさにそれだったということに気付くのは、またしばらく後の話で。

「あ、ありがとう──────」

 恥ずかしいのは凛子も同様だったようで、明人のかたわらで正座しながら、俯いてしまった。こちらもそれ以上何を言っていいのかわからなかったのだろう。

「あ…あのね。実は、明人さんにプレゼントがあるの」

 中高生カップルかと由風あたりに言われそうな気恥ずかしい時間をしばし過ごしてから、凛子がようやく決意したように口を開いた。

「すごく勝手に用意したものだから、気に入らなければもらってくれなくて全然構わないんだけど……」

 いったい何を言うのだ。凛子からのプレゼントならば、たとえ何であろうとも喜んで受け取るに決まってるではないか。

 そんな思いを言葉にするより先に、凛子は既に立ち上がっていて、リビングの奥に見えないように置いてあった紙袋を出してきたので、明人もその後を追ってそちらへと歩いていく。それは、会社の近くにある呉服屋の名前の入った紙袋。中身の予想がまったくつかなくて、凛子の顔を見やったとたん、凛子の頬が再び紅潮する。

「あ、あのね、こういうものなんだけど……」

 凛子が紙袋から出してきたのは、青っぽい生地────後で聞いたところによると、瑠璃紺(るりこん)色というのだそうだ────に幾何学模様のような模様や黒や茶のラインが入った、ひとことでいうなら「渋い」と表現するような落ち着いた柄の和服だった。一瞬凛子のものかと思ったが、女性が着るような色柄ではないなと思い直し、もしかしてと心に浮かんだ可能性を口にしてみる。

「これ……もしかして、俺に…?」

 そのとたん、凛子は真っ赤な顔をしたままこくりと頷いて。

「あっ でも、浴衣とか着るの面倒だったら、全然構わないのよっ ふと見かけて似合いそうだななんて思っちゃっただけだからっ 別に、私が着てるからって押しつけるつもりなんてないしっ」

 必死に言い募る凛子があまりにも可愛らしくて────凛子のことだから、言っている言葉に嘘偽りはないのだろう。冷静な時ならともかく、ここまでテンパっている凛子に嘘をつけというほうが無理な相談だ────明人は自然と、口元に笑みを浮かべていた。何よりも、自分に『似合いそう』と思ったというだけで買ってきてくれたなんて、そばにいない時でも自分はちゃんと凛子の心の中にいるのだという事実の証明のようなものではないか。そんな恋人が愛しくて、いますぐにでも抱き締めたくなってしまう。

「凛子がくれるものを俺が嫌がるなんてこと、ある訳ないじゃないか。ありがたく着させてもらうよと言いたいところだけど、俺実は浴衣なんてろくすっぽ着たことないんだよね。もちろん着付けは、凛子が手伝ってくれるんだろう?」

 すっかりいつもの調子を取り戻して、凛子の肩に手を回しながらそっと引き寄せると、既に真っ赤な顔をしていた凛子の顔がますます赤くなって、もしかしたら火でも噴くのではないかと思うほどだった。

「も、もちろん着付けはやらせてもらうけど……その前に、手、手を離してくれる?」

「やだ。も少し間近で、凛子の浴衣姿を見ていたいから」

 赤くなったままどうしていいかわからないでいるような凛子の唇に、そっと自分の唇を重ねて。離れると同時に、満面の笑顔を浮かべる。ますます居心地の悪そうな表情を浮かべる凛子が愛しくて、そのまま押し倒したくなる自分の欲望を必死になって押しとどめる。

 ああもう、何て可愛いんだよ、俺の恋人ときたらっ こんなに煽りまくって、どう責任をとってくれるつもりなんだ?

 本人にそんな自覚はないだろうし、キスもそれ以上のこともとっくに経験済みだというのに、それでも少女のように恥じらう姿は、明人にとっては何よりのご馳走で。こんな愛らしい姿をもっと見たいと思う反面、普段の生真面目な姿とは裏腹に、誰でもない自分の手によって花開く瞬間を見たいという気持ちもあって、いつも明人の内心は翻弄されまくるのだ。凛子という、ただひとりの女性によって。

 とりあえずいまは、この滅多に見れない姿をしばしの間独り占めしていることにしようかと、明人は心に決めた…………。


 10分ほどもそうしていただろうか。やがて、明人の胸に身をあずけていた凛子が身じろぎをした。

「い、いつまでもこうしていてもしょうがないわ。いい加減始めないと、時間がなくなっちゃう」

 そうだ。今夜は、市内でも一番大きい花火大会当日なのだ。電車で行くにしても車で行くにしても、いい加減身支度を整えて出なければ、駐車場も座る場所もなくなってしまう。名残惜しいけれど、するりと自分の腕から抜け出て立ち上がる凛子の後を追って、明人は立ち上がる。

「…そうだね。せっかくの浴衣を、いま脱がしちゃう訳にもいかないからなあ。それは、後のお楽しみということで」

 にやにや。自分でも、中年オヤジのようだと思う笑みを浮かべて言うと、ようやく落ち着いていたらしい凛子の頬が再びボッと赤くなった。

「と、とにかく、こっちの部屋に来てくれる?」

 紙袋と例の浴衣を持って凛子が示したのは、凛子が普段寝室に使っている部屋だった。入ったことももちろんあるし、共に過ごしている時に我慢しきれず中のベッドに押し倒したこともある。

 中に入ると、既にカーテンはひかれていて暗かったが、凛子が照明のスイッチを入れると同時にパッと明るくなって、中がよく見えるようになった。まず目に入ったのがベッドであったあたり、自分の正直さに明人は内心で微苦笑を浮かべてしまう。こんな魅力的な姿を目の当たりにして、あと数時間おあずけかと思うと歯噛みしたい気分になるが、その前に世の男どもに可愛い恋人を見せびらかせるのだと思うと、非常に誇らしい気分になってくる。

 そうだな。物欲しそうな顔をする男どもを前に、さんざん見せつけてやるのも悪くないか。

 そんな考えが頭をよぎるあたり、自分も西尾に負けずなかなかの腹黒だと思わなくもないが、凛子に関しては改める気はまったくないあたり自分でもどうしようもないくらい凛子に惚れているのだなと再認識してしまう。

「えっと、じゃあまず着ている服を脱いでくれる?」

 少々言いにくそうな凛子の声に、瞬時に現実に立ち戻る。

「服だけ? パンツは脱がなくていいの?」

「何でそこまで脱ぐ必要があるのっ 下着はいいのよ、そのままでっ」

 いまさら明人の全裸にうろたえるような間柄でもないのに、いつまでも恥じらいを捨てきれない凛子が可愛くて、ついついからかってしまう。口元に笑みを浮かべたまま眼鏡を外して、着ていた服を一枚ずつ脱ぎ捨てていく。といっても真夏のことなので、せいぜい二枚くらいしかないのだが。

「そうしたら、まずこれを着て」

 凛子に渡されたのは、襟元がV字型になっているグレーのTシャツ。なるほど、こういうものを下に着ておくものなのかと思いながら、頭の上から通して着たところで、もう眼鏡をかけていいと言われたのでそばに置いておいた眼鏡をかけ直す。

「それから、足を肩幅程度に開いて、背筋はまっすぐ伸ばしていてね」

 三面鏡の前で言われるままにすると、背後からそっと浴衣を羽織らされる。たたみじわなどが付いていないところを見ると、事前にきちんと準備をしておいてくれたのだろう。ほんとうに細やかな心遣いをいつも自然にやってのける凛子には、公私ともに感心せざるを得ない。だからこそ、時には厳しいことを口にしても後輩三人娘を筆頭とする皆が素直に彼女を慕うのだろうと思う。ほんとうに、我ながら素晴らしい女性をものにしたものだと自分で自分を褒めてやりたくなる。

 そんなことを考えていたから、ほとんど無意識に自分で袖を通そうとして、凛子にそっと手で制される。

「あ、できるだけ動かないでいて。そのほうがやりやすいから」

 凛子の手によって腕を袖に通されて、そのまま前面の端を「持ってて」と渡される。真横に回った凛子は、明人の背の中心と縫い目とを見比べて、ちょいちょいと指先で引っ張ったりして調整をしてから再び前に回り、明人の手から端を受け取ると前身ごろとでもいうのか、明人から見て右側の部分を先に左側と身体との間に通し、指先でピシッと整えながら押さえて今度はもう片手で左の前身ごろを重ねる。そうして上から二枚の前身ごろを押さえながら、スッと抜いた最初の片手でそばに置いてあった細めの紐を取って、腰骨の上の辺りで背後に回して交差させてまた前に持ってこようとするのだが、男の腰に回すには女性の腕ではリーチ的に少々辛いらしく、ぴったりと身体を密着させてくる。

 洋服の時とは違う互いの身を包む薄い質感に、普段抱き合っている時より胸の感触がよりハッキリ伝わってくるような気がして、思わずどきりとしてしまったところに、視線を落とした先に白いうなじが飛び込んできて、我慢できなくなってしまって、だらりと力なく下ろしていた腕をゆっくりと持ち上げて、凛子の細い身体を強く抱き締める。まさか、そんなことをされるとは思っていなかったのか、凛子が小さく悲鳴を上げた。

「な、なに!?

「ごめん。こんな密着されて綺麗なうなじのおまけまで付いて、おとなしくしてろなんて拷問もいいとこ。我慢できない」

 言うが早いか、抱き締めたまま凛子をベッドに押し倒してしまう。

「だ、だめ…っ」

 制止の声を上げようとするのを唇でふさいで、一瞬の隙をついてその口腔にみずからの舌を滑り込ませる。

「んん…っ!」

 洋服の時よりよっぽど手を入れやすそうな作りの胸元に手を差し入れると、やわらかな薄い布の下にいつもとはずいぶん違う手触りの下着らしきものがあって、それもまたいつも以上に手を入れやすい作りで容易く明人の手の侵入を受け容れる。

「だ、め…! こん、なこと…してる場合じゃ…っ」

 唇が離れた隙に凛子が抗議の声を上げるが、明人とて止まれない。

「こんな隙だらけのもの着て目の前をちらつかれたら、目の毒以外の何物でもないよ。脱がせやすさも段チだしね」

「そ、そんなつもりじゃ…っ あっ」

 わずかに乱れた裾からのぞく白い脚がまた艶めかしくて、ほとんど無意識に撫でてしまう。そのとたん、凛子はびくりと反応して脚を固く閉じるが、それがかえって裾をはだけることとなって、その脚をよりあらわにする結果となってしまった。

「ほら、もう綺麗な脚が丸見えだ」

「や…っ!!

 羞恥のために凛子の頬に朱が散った。それすらもたまらなくて、首元に唇を這わせて。そのまま強く吸いつこうとした瞬間、胸に両手を当てられて信じられないほど強い力で押しのけられる。

「えっ!?

「ダメっ それだけはいまはダメっ! そんな跡なんてつけられたら、花火大会に行けなくなっちゃう」

「えー」

 はあはあと呼吸を乱しながら胸元と裾をかき合わせる凛子に、明人は思わず不満の声を上げるが、凛子は強い光を宿した瞳で明人を見返し、きっぱりと言い切った。

「こ、こんなことするために浴衣を用意したんじゃないもの……あ、明人さんと花火大会に行きたかったから用意したのに」

 その気持ちは痛いほどわかるし、できることなら叶えてあげたいけれど。男の本能というものも理解してほしいというのは、自分のわがままだろうか? それをそのまま告げようかどうしようか考えた瞬間、凛子の瞳から音もなく透明な雫がこぼれた。

!!

 明人の身体が石化したように固まる。笑顔同様、凛子の涙には明人にとって他の何よりも破壊力があるのだ。それも、自分のせいでとなると、威力は更に倍増する。情けないとは思うけれど、普段の敏腕営業マンとしての冷静さはどこへやら、声を一切出さずに涙を流し続ける凛子の前で、ただおろおろとしてしまう明人がそこにいた。

「だ…って……」

 そのうち、しゃくり上げるような小さな声が凛子の喉からもれて、明人の耳を打った。

「まだ、恋人同士としてはあんまりデートできてなかったし…………絶対似合うと思って、着せたかったんだもの……やな…女だって、自分でも思うけど……こん、な素敵なひとが…わたしの恋人なんだって……見知らぬ人たちにだって、胸を張って自慢したかったんだもの───────」

 ズキュウウウウン!!と、胸を撃ち抜かれた気がした。銃弾ではなく、もう一生抜けないような、キューピッドの愛の矢で。

 声をかけたいけれど、何と言ってやればいいのかわからない。そんなにも。そんなにも、純粋な気持ちで自分を想ってくれて、サプライズのプレゼントまで用意して、一緒に歩きたいと願っていた恋人に、自分は目先の欲望に負けて何ということをしようとしていたのか。自分の中の良心が、ちくちくどころかずきずきと痛む。針なんかのようなささやかなものではなく、剣でぶすぶすと刺されているような気分だ。ベッドの上でへたり込んで、小さな子どものように握った手の甲で涙を拭い続ける凛子に音もなく近づいて、そっと抱き締める。

「─────ごめん。ごめん。ごめん。凛子がそんなにも純粋に想ってくれてたなんて、思ってもみなかった。全然、やな女なんかじゃないよ。それぐらい、誰だって持つ感情だよ。それを言ったら、俺なんか比べ物にならないぐらい邪(よこしま)な感情をいつも抱いていて、凛子にはとても話せないぐらいだ」

 ひっくとまだしゃくり上げている凛子が、小さく「放して…」と呟いたので、ずきりと胸が痛む。

「わたしの…涙で、浴衣がシミになっちゃう……」

「そんなこと、全然構わないよ」

「だって……」

「そんなの、俺が凛子の心につけた傷に比べたら、どうってことないよ」

 ほんとうに。凛子が繊細な心の持ち主だと知っていたのに。浮かれて、調子に乗って傷つけてしまった自分を殴りたくて仕方がない。これからは絶対に自分が守るんだと思っていたのに、誰でもない自分が傷つけて泣かせるなんて、本末転倒もいいところだ。

「ほんとうにごめん。今度はおとなしくしてるから。もう一度、ちゃんと着付けてくれるかな?」

 見れば、せっかく綺麗に着付けられていた凛子の浴衣もあちこち乱れまくりで、とてもではないが人前には出せない状態だ。凛子が今夜の花火大会をどれだけ楽しみにしていたのか考えると、その惨状が申し訳なくて。浮かれまくっていた明人の心まで、針で穴をあけた風船のように、しおしおと萎んでいく。

「ま…待って……私、顔を洗ってくるから。このままじゃ、もうどこにもでかけられない…………」

 明人の腕の中で、涙を拭いながら凛子が身じろぎをしたので、明人はそっとその腕をゆるめて、強く抱き締めていた凛子の身体を解放する。涙に濡れた顔を見せるのは気恥ずかしいのか、凛子は明人に顔を見せないようにしながらベッドから下りて、鼻を鳴らしながら「ちょっとだけ待ってて」とだけ言い置いて部屋を出ていく。ドアの閉まる音がすると同時に、明人はベッドに腰を下ろして、海よりも深いため息をついた。あまりにも大きい、自己嫌悪のためだ。

 あー…最低だ、俺。何からも誰からも絶対守るって誓ったのに、誰でもない俺が泣かせてどうすんだよ。いまここに由風さんが居てくれたらよかったな。そうしたら、外から見えないところばかり集中的にぶん殴ってもらえたのに。

 実際にそんなことを頼んだら、下手をしたらしばらく食事すら摂れなくなるかも知れないようなことを考えてしまうぐらい、深い自己嫌悪に明人は陥っていた。これでは、以前凛子を傷つけた当時の恋人と変わらないではないかとまで思ってしまうほど、力の限り猛省して。今日という日は、自分の望みなど後回しで凛子を楽しませるためだけに己のすべてを賭けようと、そう誓った。

 それと同時に、少しだけ目を赤くしているけれど普段とそれほど変わりのない顔をした凛子が、そっとドアを開けて入ってきた。ついでに髪も直してきたのか、先ほど乱れた髪も最初の時のように綺麗に結い上がっている。それを見た瞬間、反射的に明人は立ち上がり、深く頭を下げる。

「ほんっとーにごめんっ! 俺、すごい身勝手だった!!

「そ、そんなこと…私こそ、あれぐらいであんな泣いちゃって、ごめんなさい。明人さんを喜ばせたくていろいろ用意してたのに……」

「いや、凛子は全然悪くないよっ 俺が、自分のことしか考えてなかったってだけでっ」

「ううん、私こそ……」

 お互いに言い合いながら、互いの顔を見合わせて。思わずくすりと笑ってしまう。何故だかはわからないけれど、何だか可笑しくなってしまったのだ。

「とにかく。もう一度、初めからやり直すわね。私のはその後でやり直すわ。明人さんのを着付けてる間に乱れちゃったらどうしようと思ってたから、ある意味ちょうどよかったわ」

 そう言って、いつもと変わらない微笑みを見せてくれたから。明人は心の底から安堵して、凛子には気付かれないように深く息をついた。





    





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2013.3.11up

明人氏、凛子さんにすっかりメロメロです()
そしてやっぱり、彼の理性はあっさり決壊しました。
「根性なし」と罵ってやりたいところですが、
反省したのでまあよしとしましょう。

背景素材「空に咲く花」さま