〔24〕





 まだ青く、硬い蕾が少しずつ花開いていくような幻を、暁は見た気がした。

 初めて経験するであろう感覚に戸惑っているように見えながらも、夕映の身体は確実に快感を覚えているようで、暁の指の動きに翻弄されながらも少しずつ甘く可愛らしい声を上げ始めていた。

「は…あっ」

「ここ…気持ちいい? もっと、気持ちよくしてやるよ」

 同じようなことを他の女性ともしたことがあるというのに、暁の心臓は知らぬ間に鼓動が早まっていて、早く早くと急かすみずからの身体を理性で押し留めるのに非常に苦労を強いられた。

 それほどに、初めて聞いた夕映の嬌声は甘く、口内に交互に含んだ胸の先端は暁を煽るように硬くなり始め、芳香や芳醇な味わいを放っているような錯覚を暁に与え、その手に触れた乳房のやわらかさが思考力を見る見るうちに奪っていくものだった。それでも、野獣のように暴走しなかったのは、すべて初めての経験だという夕映のため。自分の欲望だけで突っ走る訳にはいかないと、全精神力をかけてみずからの本能を抑えていたのだ。限界が近いことも、もちろん自覚していたけれど。

 自分の上げる声が恥ずかしいと言って、みずからの手で口元を覆う夕映は可愛過ぎて、危うく壊れかけた理性が完全に決壊するところだった。

「いいよ、我慢しなくて……俺はむしろ、夕映の声が聞きたい…………俺のすることで、夕映が感じてくれてるって証しだから」

 彼女のわずかな反応のひとつひとつさえも、見逃したくなかった。できることなら、一生覚えていたいほど。だから、声を抑えてほしくなかった。自分のすることで、彼女がどんな風に感じてくれているのか…どんな声を上げるのか、すべて記憶に焼き付けたかったから。

 下着の上からとはいえ、彼女の秘められた箇所に手を触れた時は、さすがに怯えたような光がその瞳に宿ったけれど、安心させるように優しい声をかけて、ゆっくりと両脚を左右に割り開いた。

「大丈夫だから…力を抜いて」

 他の誰も、見たことも触れたこともないであろう、彼女の一番大切なところ─────それを見られるのが、触れられるのが、そして受け容れてもらえるのが、他の誰でもない自分であるという事実が、暁をより興奮させる。両手でみずからの顔を覆ってしまうほど怖くて恥ずかしいだろうに、自分のために身体を開いてくれようとする夕映の気持ちが嬉しくて、その額にキスを贈る。それと同時に下着の上からその中心を指でなぞると、夕映の身体がこれまでの比ではないほどに大きく震えた。

「あ、や…っ」

「…大丈夫。優しく、するから……」

 優しく全身を撫でているうちに、夕映の身体の震えが止まる。少しは、安心感を与えてあげられたのだろうか。先刻まではガチガチに力が入っていたその身体から力が抜けていくのを確認してから、ゆっくりその中心を撫でるのを再開する。

「あ…っ あ、は…っ やあ……あ、き…!」

「…俺だけに見せて。夕映の、他の誰にも見せたことのないすべてを─────」

 言いながら唯一残ったショーツを脱がせた時には、既に夕映は半泣きに近い状態で、その潤んだ瞳に己の下半身が更に刺激されて、もはや痛いくらいだった。

「まあ、見るだけじゃ絶対終わらせられないけど」

 半ば照れ隠しで言った言葉は、夕映の胸にはどう響いただろうか。

 左手と舌で他の場所の愛撫を再開しながら、右手の指先で慎重に花弁や秘裂を撫でさする。時折、思い出したようにその上のほうにある蕾を掠めると、夕映の身体がわかりやすく反応して、指に絡む蜜がその量を増していく。できれば直接この舌でそちらの味も確かめたかったけれど、初めての夕映にはそんなことまでするのは酷かと思い、今回はとりあえず諦めることにする。何、そんなに急がなくても、時間はこれから先いくらでもあるのだ、またチャンスもあるだろうと、自分を納得させる。

「夕映…いい?」

 自分自身はすぐにでも夕映のナカに入りたがっていたが、まだまだ準備が足りない。だから、一応問いかけてから初めて彼女のナカに指を一本差し込んだ。

「…っ」

「ごめん、痛いか?」

 無言で首を横に振る彼女にホッとして、静かにゆっくりとその指を動かし始める。指一本だというのにきつく締めてくるソコに、こんなに大きくなってしまっているモノを挿入することへの罪悪感を抱かなくもないが、欲望には勝てない。もちろん、身体的なそれだけでなく、彼女を自分だけのものにしたいという独占欲も大いに含まれている。いままで、自分が初めての相手だという女性に会ったことがなかったから、尚更かも知れない。

 いろいろ探ってみて、他の場所と反応が違ったところを重点的に攻めてみると、彼女のナカが更に潤いを増してきて、声にもそれまでより更に艶が含まれてきたような気がした。これなら、もう少しで大丈夫かも知れない。

「あ、んっ ふあ…っ あっ」

「気持ち…いいか? すごく…濡れてきた」

「や…っ そん、なこと、言わないで…!」

「何で? 感じてくれてるの、俺はすごく嬉しいけど。ほら、この音聞こえるだろ?」

 平気なふりをして言ってみるが、内心はもはや暴風雨だ。

「もう、何もかもどうでもよくなっちゃえよ。恥ずかしいとか思う間もないくらいに」

 そのまま夕映を絶頂に導いて、彼女が呼吸を整えるのを待ちながら、自身も逸る気持ちを懸命に抑える。彼女のためとはいえ、このまま堪え続けるのももう限界だった。

「え…あ…わたし……?」

「気持ち、よかっただろ? これから、もっともっと、気持ちいいこと教えてやるから、楽しみにしてな」

「え……」

「んでも…今日はもう、俺のほうが限界。ごめん……ホントはもっと気持ちよくしてやりたかったけど…夕映の感じてる可愛いところ見てたら、俺もう我慢できねえ……」

 まだぼんやりとしている夕映からは見えないように、微妙に身体をずらしてから、最後の一枚を脱ぎ捨て、敷き布団の下に忍ばせてあったソレを自身に装着する。いままででも最短記録だったのではないかと思った瞬間、みずからの堪え性のなさに思わず苦笑してしまったが、夕映は気付いていないようだった。

「痛かったら…ていうか痛いに決まってるよな。我慢できなかったら、俺のこと叩いても引っ掻いてもいいから。それでもきっと、俺止まれないけど」

 もう一度、夕映に優しいキスを捧げてから、ゆっくりと夕映のナカへと自身を押し進めていく。

「や、ああっ!!

 ほとんど悲鳴のような声が夕映の唇から迸るが、先に宣言した通り止めることなどできない。

「痛…っ あっ やあっ!」

「…くっ!」

 初めて男を受け容れたであろうソコは、予想以上に狭く、きつくさえ感じるこの状況では、長くもたないことは目に見えていた。

「ゆ、え…力、抜いて」

「できな…っ」

 よほど痛いのだろう、大粒の涙をこぼしながら懸命に耐えている表情を浮かべている夕映に、どうしたら少しでも楽にしてやれるだろうと考え、夕映の太腿をおさえていた手を離し、彼女が快楽を感じるだろう箇所を優しく愛撫してやると、自分のモノを締めつけている力が緩んだ気がした。暁の読みは、当たっていたようだ。ほんとうはもう少しこのまま慣らしてあげたかったけれど、自分自身とは別の生き物が宿っているとしか思えないソレは、「早く早く」と暁を急き立てる。

「ごめんな、動くから少しだけ我慢してくれな」

「や、痛…っ んんっ ああっ」

 目尻に涙をにじませながらも、懸命に自分に応えてくれようとする夕映の姿に痛々しささえ覚えるが、それを大きく上回るのは、そんな彼女を愛しいと思う気持ちと、繋がっている箇所を中心として全身を駆け巡る快感。思った通り、いままでのどんな時よりも気持ちのいいそれに、気を抜くとあっという間に達してしまいそうだった。全身の気力と体力を振り絞ってそれを阻止しながら、ゆるゆると腰を動かしていく。

「あき、らさ…も…いたい、の……?」

「いや。すっげー気持ちいいよ。俺だけよくて、申し訳ないくらい」

「なら…よかっ……」

 自分のことよりも暁のことを気にしてくれるいじらしさに、胸が締め付けられる。今日ばっかりは仕方がないが、これからは夕映を気持ちよくすることを優先させてやると誓いながら、行為を続行する。

「あ、き…ら、さ…」

「ゆ、ゆえ…っ」

 愛しい名前を呼びながら、愛しい存在に包まれて、愛しい想いのすべて────ぶっちゃけてしまえば欲望も多分に入ってはいたが────を解放した…………。


 呼吸が落ち着いてきた頃、名残惜しさを感じながらも夕映のナカから自身を引き抜くと、敏感になっているらしい夕映の身体がびくりと震えたが、まだどこかぼんやりとしているような表情でそっと目を閉じた。

 みずからの後始末をしてから下着を穿いて起き上がり、適温の湯で濡らしたタオルを持ってきて、そっと夕映の手を取った。

「ちょっとごめんな、身体、綺麗にするから」

「ん……」

 夕映はまだ現実に立ち戻れていないのか、小さな声で返事をするだけで、暁のするがままになっていて…やはり、初めての女の子には辛かったのだろうと、申し訳ない気持ちになってくる。

 彼女がようやく普段のように戻ったのは、暁が再び隣に横たわって二人分の上掛けを掛けてから、夕映の頬を優しく撫でながら汗で頬に張り付いていたほつれた髪をよけている時だった。

「ごめんな、痛かっただろ」

「いいの…私が自分で選んだことだから。それよりも……暁さんが…この傷跡のことを受け容れてくれたことのほうが、嬉しいの─────」

「馬鹿野郎……その傷跡もすべてひっくるめての、夕映なんだろうが。それもわからねえような男に、誰が渡すかよ」

 それは、まぎれもない本音。互いの人生の、何かひとつでも違っていたら、いまこうして寄り添っていなかったかも知れない。そう思うと、彼女のどんな部分も愛しく思えてくるから不思議だ。

「…疲れただろ。今日はもう、このまま眠っちまえよ。俺はずっと、そばにいるから…………」

 そう優しく告げると、夕映はこくんと頷いて、それからいくばくもしないうちに眠りに就いた。初めて見るその寝顔を、暁はしばし愛しい想いを胸に見つめていたけれど、こちらも睡魔には勝てなくてゆっくりと眠りに落ちていった……。




                      *      *




 翌日は、いつもよりかなり遅めの時間に起きて────真夜中に、夢を見たらしい夕映が目覚めた拍子にこちらも一度起きてしまったが、ほんのわずかな時間だったので問題はなかった。「陽香」という名を口走っていたことから、そっとしておいてやるほうがいいことだろうと判断して、何も訊かなかった────まだ身体が辛そうな夕映が、何の憂いもなく服を着られるように、暁はさっさと服を着て背中を向けて朝昼ご飯といっていいような食事を作った。といっても、簡単に切った野菜やチーズを載せただけのトーストと前日買っておいたコンビニのサラダ、それとインスタントのコーヒーくらいだったけれど、夕映はよほどお腹が空いていたのか「美味しい」と何度も連発しながら全部残さず食べてくれた。

「夕映の作るものに較べたら、こんなの料理のうちに入らないけどさ。こんなに綺麗に食べてくれると、やっぱり嬉しいもんだな」

「そ、そんなことないわっ だって、実際美味しかったし、全部暁さんにやらせちゃったし」

「まあその分? 昨夜は俺が夕映を美味しくいただいちゃったから、おあいこだけど〜♪」

 楽しそうに言いながら空になった食器を流しへと持っていくと、ぼすっと背中に何かが当たった。振り返って足元を見ると、落ちていたのは枕。無造作に畳んでおいた布団の上にあったそれを、夕映が投げてきたらしい。当の夕映は、耳まで真っ赤にして思いっきり顔を背けていたけれど。

 知り合った当初は「何て可愛くない女なんだ」と思っていたのに、いまではそんなところさえ可愛くて、もう仕方がない。手早く食器を片付けて、早々に夕映の待つ長座布団の上へと戻る。

  後ろから夕映を抱えるようにして壁を背にして座って、事前にレンタルしておいた適当な映画のDVDを流し始める。そうでもしないと、また彼女を押し倒してしまいそうだったから。さすがに昨夜、処女を喪失したばかりの相手に、昨日の今日で仕掛けるほど暁も鬼畜ではなかったので、間をもたせる方法を考えた末の行動だった。それでも触れるくらいはしていたくて、こうなってしまった訳だが。

 あと二時間もしたら、家に帰らないといけないと夕映が言っていた時間だと思ったとたん、急激に淋しくなってくる。独りで夜を過ごすのなんて、とっくに慣れたものだったのに。ただ一度、夕映の肌の温かさを知っただけで淋しくなるなんて、不思議なものだと暁は思う。

「あ…暁、さん…っ」

 頭の下から夕映のか細い声が聞こえてきて、ふいに視線を下に向けると、自分の手がいつの間にか夕映の胸元を服の上から撫でさすっていて、夕映が顔を赤らめつつちょっと困ったような表情で暁を見上げていた。暁の両手は夕映の腹部のあたりで組まれていたはずなのに、いったいいつの間に? ほんとうに無意識の上の行動だったので、慌ててしまう。

「わ、わり……あんまり嬉し過ぎて、調子に乗っちまった…」

 これでは、やはり身体が目当てなのかと思われても仕方がない。そう思って落ち込みかけた暁の胸に、夕映がそっと頬を寄せてきたので、更に驚いてしまった。

「お、おい…そんなことされたら、襲っちまうぞ……まだ痛いんだろ」

「か、身体よりも……またしばらく、こうしてゆっくり一緒に過ごせないことのほうが…淋しい、です…………」

 信じられない言葉が、暁の耳を打つ。

「ゆっくり一緒に過ごせなくて…何だって?」

 ふいとそっぽを向いた夕映の首筋に、わざと大きな音を立てて口づける。

「ん…!」

「まったく……無意識に男を煽るのがうまいお嬢さんだよな」

「あ、煽ってなんか…!」

「無意識だから、よりタチが悪いんだよ……頼むから、俺以外の男にそんなこと言ってくれるなよな」

 可愛い恋人にそんな可愛いことを言われて、その気にならない男がいるだろうか。いいや、いるはずがないと、暁は確信していた。

「い、言う訳ないじゃないですか……あっ」

「寝た子を起こしてくれた責任は…ちゃんと、とってくれよな?」

 夕映の胸元のボタンを外して、昨夜みずからがつけた紅い印とは別に、また新しいものをつけていく。ちゃんと、服で隠れるところにつけることだけは、絶対に忘れない。これは夕映のためということもあるが、希への配慮でもあった。自分を振った相手が別の男と初体験を済ませたなどという経験は、自分にもあったから、それがどんなに辛いことかよく知っていたから。

自然に呼吸が乱れていく夕映を、長座布団の上に横たえて、覆いかぶさるようにして暁は再び優しいキスを落とす。それと同時に、夕映のスカートの中の脚に片手を伸ばしたところで、かけられる声。

「あ…あき、らさん……」

「ん?」

「す、き…です……」

「俺も。誰よりも、好きだよ……」

 この先、たとえ何があっても。その気持ちだけは絶対に変わらないだろうと、暁は思った……。





    





誤字脱字報告もこちらからどうぞ
返信はTOP返信欄にて






2013.2.14up

初えっち、暁視点での回でございました。
ぎりぎりバレンタイン当日に更新できてよかったです。
一部、その後加筆修正しました。

背景素材「空に咲く花」さま