東京の、私がよく使っているビジネスホテルからの手紙が職場に届いた。私は 大抵宿帳を書くときに、自宅ではなく職場の住所と電話番号を書くようにして いる。連絡を取るのであれば、自宅よりも職場の方が取りやすいのだろうし、 それにホテル側から私の方に何か連絡があるときは、忘れ物をしたとか、そう いう時くらいで、そうそう連絡なんてくることはないさと思いたかをくくって いたのだ。 このホテル、都心のJRの駅から徒歩3,4分という至極便利なロケーション の上、料金もなかなかリーズナブルで非常に重宝している。ただ、そのあたり が広まってきたのか、最近は早めに予約を入れないと満室になってしまう。 幸いにして、これまで憂き目に遭ったことはないのだが。日頃の運はこういう 時に使うものだな。 何だろう、と思い封書に手を伸ばすと、ちょうどパンフレットくらいのものが 入っている感触。改装が終わりましたので、是非また御利用くださ〜い、とか いう感じのお知らせかな。もしくはホテル会員かなんかの勧誘かな、と思い封 を開ける。 ガサガサ ...... .......... 「コミックマーケット60 ご参加の皆様へ」 ぶはあっ!!! な、な、なにぃ!? 拝啓 益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。 平素は格別のご愛顧を賜り、誠に有り難く厚く御礼申し上げます。 さて、今年も8月10日〜12日(3日間)東京ビッグサイトに おいて「コミックマーケット60」が開催の予定です。 この度、○○○では「コミックマーケット」ご参加の皆様に下記 の通り特別料金をご案内させていただきます。何卒ご利用ください ますようお願い申し上げます。 ご予約時、「コミックマーケット」ご参加の旨を一言お申し出下 さい。またご利用の際には、下記の券を切り取りお持ち下さいます 様お願い申し上げます。 皆様のお越しを心からお待ち申し上げております。 敬具 な、な、なななな、 なぜバレたああああ ぁぁっ!!!! ホテルの人にそんなこと話したことは一度もないし、そんな素振りも見せた こともないはずなのだが...なぜ名指しで私にそんなお知らせを.... う〜〜〜む.... いや待て、冷静になれ。 これまでにあのホテルを使ったときにコミケに参加しているという痕跡を 残していたかどうか。 いや、残していない。同人誌を広げていたこともなかったし、ホテルで原稿 描いてたこともない。これ見よがしにチケットを机の上に置いといたことも ないし、ホテルから宅急便で同人誌を送ったこともない。チラシやら何やら をゴミで出したこともないし、変な服を着ていったことももちろんない。 ましてやコスプレなんか。 ううむ、益々もってわからんぞ... ちょっと待て。私があのホテルを使わせてもらったのはいつだったか。 それはあの出張のときと....あ...あれ?あれれ?? 仕事であのホテル使った ことってないじゃないの 私ってば!!! 4,5年前から夏と冬の年2回、いつも決まった時期に利用する客、それが 私。以前はコミケの時は友達の部屋に転がり込むかどこか街中で夜を明かす のが通例だったけど、さすがに寄る年波には勝てず、きちんと宿を取るよう になっていたのだ。そういえば以前に比べると最近は同じような客が増えて きたっけ...そりゃホテル側も何かに気づくわな。それがビジネスに繋が るとなれば動くわな。自然な流れだ。 かくして今年も同じホテルを利用することになるだろう私。「下記の券」 をフロントに差し出したときの反応が今からちょっと怖いが、たぶん当日 はそんな客ばかりだろう。そうと決まればすぐに予約入れなくちゃ。 「すみません、8月の9日から11日の3泊で...」 『はい、それでしたら8,400円と8,900円の部屋をご用意 できますが』 あ、予約入れるときも「コミックマーケット参加」って 言わなくちゃならないンだっけ。 「すみません、そちらからお手紙をいただきまして、コ..コ.. コミックマーケット参加者は特別料金で利用できるそうで...」 『あ...コミックマーケットに参加される方ですね。それでしたら 特別料金でご用意させていただきます』 「よ、よろしくお願いいたします...」 あ〜〜〜気まずかった。果たして電話に出てくれた方はコミックマーケット がどういうモノなのかご存じだったのだろうか。 このホテルは今回初めてこのようなことをしたようだが、前から他のホテル がこのようなことをやっていることは話に聞いていた。常識的に考えれば、 多くの会社が休みのこの時期、ビジネスホテルはあまり客も来ない。ならば 多少安く設定して、ひとりでも多くの客をGETした方が実入りがいいのは 当然のこと。そういう流れで各ホテルのコミケ参加者争奪合戦が繰り広げら れているのだろう。 しかし穿った見方をすると、この時期大挙して押し寄せてくるおたく共から 他の一般のお客さんを守るため、ひとつところ、もしくは1フロアにおたく 共を隔離するための方策、と言うことも出来る。 果たして各ホテルの真意はどちらにあるのだろうか... 待てよ。 実はホテルのオーナーがおたくで、またはそういうモノに理解のある方で、 その鶴の一声で行われていたりして。 しかもその時期にやってくるおたく共に対するホスピタリティとして、朝は ビッグサイトまで無料バスを運行、サークル参加者には荷物をスペースまで 運んでくれるサービス、一般参加者には抽選で10名様にサークル入場チケ ットを贈呈、またコスプレイヤーには更衣室の優先利用権をもれなく進呈。 ホテル内部は、廊下には観葉植物の代わりに等身大フィギュアが並び、部屋 に入ると絵画の代わりにアニメのポスター、聖書の代わりに漫画本がずらり と揃い、TVをつけるとアニメが自動的に流れるようになっている。深夜の エロビデオももちろんアニメだ。 さらにフロント職員がコスプレしてお出迎え、部屋番号も201とかではなく 「でじこの部屋」「ぷちこの部屋」とかいう名前に変えられ、ホテルの一部で 即売会まで開かれる始末。しまいにゃホテル名が「ひなた荘」に変わってたり すればウケること間違いなし!おたく共が津波のように押し寄せ閑古鳥なんて どこ吹く風!!ホテル大もうけ!!おたく大喜び!! 私は行きませんけどね。 |
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